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2011年2月26日 (土)

【book martin 41928】 007『世界を変えるデザイン』

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現在の社会はまさしく「暴走する資本主義」であって、誰もがそこに疑問を抱きながらもなかなかそこから離脱することもできないでいる。その原因の一つは金融にあり、もう一つは企業とりわけ大企業、グローバル企業といわれるものの利益至上主義にあるように思う。だから個人的には、大企業というものを毛嫌いしている感があるのは否めない。でも大量生産や工業というものがバランス良く機能していた時代もあったわけだ。この先、今の行き詰まりを超えて次のステップの資本主義へ移行していくと思うけど、その中で企業も何かしらの新たな基準で役目を果たしていくはず。ただその時に、電気自動車のような、あくまで僕らが今いるような先進国(この言い方さえ最近気に入らないのだけれど)にとってよいものばかりではどうしようもない。
ポランニーや柄谷行人がいうような互酬と再配分が根底にある社会へと発展していかなければ、明るい未来はないと思う。これまでは貧困に喘いでいる国に対して、資金的な援助が行われてきた
再配分というのはお金だけではない。この本でいくつもの例が示されているのは、デザインというものの力で、そのお金での援助の何倍もの価値のある実績をもたらしたものばかりだ。
たしかにそこにはボランティアや利益を追求しない形で、多くの人が携わっているということもあるけれど

この本は2007年に「Design for the other 90%(残りの90%のためのデザイン)」展にあわせてつくられたものだ。日本でも「世界を変えるデザイン展」として昨年2010年5月に六本木で開催されていた。この90%という数字は何かというと、世界の95%のデザイナー達はこれまで先進国の10%の富裕な人々に向けてしかデザインしてこなかったということを指している。Design for the otherという活動は現在も進行中のようです。
ちなみにBOPビジネスという言葉も、初めて知りました。BOPとは「Base of the Pyramid」(ピラミッドの底辺)にあたる貧困層のことで、BOPビジネスとはそういった層を相手にしたビジネスのこと。

水があること、ガスがあること、明かりがあること、という生きていく上でかなり基本的な水準のことがないといったいどのような生活になるか日本で楽に暮らす僕らには想像を絶する。僕らが生きていけることが、気付きもしない沢山の恵みの重層の上で成立しているのだと・・・。
例えば水がないこと、水を遠地まで汲みに行かなければいけないことで、多くの時間が失われる。大人が桶を頭の上にのせて運んでいるとしよう。まずそれだけで仕事に行けない。お金を得る機会から、疎外されてしまう。親が十分に仕事ができなければ、子は仕事を手伝う為に学校へは行けず、教育も受けられない。
ガスがないところでは薪や草、紙、乾燥した動物の糞を燃料として使う。実はこれらがものすごく体に悪い。1歳から5歳までの子供の死因第一位は、呼吸器の疾患でその原因はこれら質の悪い燃料から発生する煙に含まれる微粒子によるものなのだ。

ポール・ポラック(かつて投資で稼ぎ、今は貧困層へのサポートをしている)は貧困層へのデザインで需要な点として、「手頃な価格、小型化、拡張性」をあげている。特に価格に関しては、価格方がいいとかではなく、手頃な価格でなければ買えないということ。そして価格を安くするための方法として以下のようなポイントがある。

・道具に厳しい減量を課す・・・最高の性能が導けなくても8割の性能に落とすことで、材料が大幅に減量できる場合がある。
・余剰性は余計なものと考える
・歴史にさかのぼるデザインで前進する・・・最新版は今の技術で最適なデザインとなっているのでかつてのデザインを振り返ってみる。
・最新素材で古い素材をアップデートする
従来からあるものを妥当な価格の範囲で性能が向上する新素材に変えることができないか検討する
・継続的に拡張できるものにする
そしてこれが大切で、少しずつ買い足していくことができるということ。例えば畑の灌漑設備の場合、はじめに1エーカーだけに設置し、利益が出たら新たにもう1エーカー追加するといったことが必要になる。

貧困層の自立を目的とした商品を開発するキックスタート(http://www.kickstart.org)は、こういった貧困層をサポートするプロダクトは無料ではいけないと言っている。これは生きることに尊厳を見いだしてもらいたいからだそううだ。
・貧困に対する持続可能な解決策を創り出す為・・・。サプライチェーン(商品供給の流通経路)をもち、そこに関わる者たちが利害関係者となることで、持続可能な事業となる。これがないと現実味のないものになってしまう。
・費用効率を高くする・・・寄付金などだけで無償で配布すると、商品のバージョンアップなどが行えない。有償とすることで、よりよいものへとしていくことができる。地域のある一人が購入し、それを見て周りの人へと拡がていくようになる。
・公正の問題・・・無料で配布するのであると、資金的に配布できる範囲が限定されてしまう。
・個人所有・・・誰でも自分のものは大切に使う。

キックスタートではこいった商品を「できる限り先進的な工場に生産を集中させることで、耐用年数の長い高品質な製品を低価格で生産できる」としている。人が生きるために、高品質な物の大量生産することであったり、それらが流通する仕組みが機能していくのはとても重要と感じる。
生きる為の消費と関わる時、分業や大量生産はとても大きな意味をもつ。お金だけでなく、デザインや知識、知恵という形での再配分というのもあるということ。環境問題、人口問題、貧困問題、金融の暴走・・・たくさんの問題を抱えて先行きは不安定な世界ではあるけれど。
これまでの需要と供給はあまりに一方通行だったのかもしれない。それによって光と影のコントラストがハッキリし過ぎてしまった。情報がインタラクティブになったと言われるように、これからは物の生産でも双方向でなければならない。この本には、この先を示唆する物が含まれているような気がする。上に挙げた、価格を安くするための方法や有償でサポートする理由のリストには、少し具体的なヒントではないかと・・・。

たくさんの事例が掲載されています。 一部を紹介するとこんな感じです。

・100ドルのラップトップ・コンピュータ
100pc
・転がして水を運ぶ「Qドラム」

Qdrum
・さとうきびの練炭・・・
地元で取れるものを利用して、煙が少なく、簡単な設備で量産できる、廃棄するものを使うので薪のための伐採も減る

・ソーラ充電の補聴器・・・
従来の補聴器は電池式で、電池は高価、しかも遠隔地まで買いに行かねばならなかった。

・足踏みのポンプ・・・
畑に水を送り込むポンプ
Moneymakerpump

・住居用土ブロック製造機

・灌漑設備・・・
安価で拡張しやすいように出来ている。初期設置で利益が出たら、拡張し、また利益が出たら拡張し、と収入の循環が生まれやすい。

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